大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和54年(ラ)758号 決定 1979年8月03日

抗告人 黒岩角助

相手方 枝村虎夫

主文

原決定を取り消す。

本件を前橋地方裁判所中之条支部に差し戻す。

理由

一  抗告人は、「原決定を取り消す。相手方の文書提出の申立を却下する。」との決定を求め、その理由は、「原決定は、相手方の昭和五四年三月一五日付文書提出命令申立書に基づいてなされたものであるが、抗告人は、同年四月一九日付準備書面で右提出命令にかかる文書の存在自体を争つている。しかるに原決定は、相手方に右文書の存在そのものについて何らの疎明をさせずに決定したものであり、取消を免れない。」というにある。

二  そこで審按するに、記録によれば、抗告人は相手方に対し、金一〇〇万円の貸金ありとしてその返還を求めて本訴を提起し、証拠として借用証(甲第一号証)を提出したところ、相手方は、右金員は抗告人の父から贈与されたものであると抗争し、右借用証は仮装のもので、その仮装の借用証を作成した経緯などを記した書面を右借用証と共に郵便封書に入れて抗告人に送付したとして、その書面及び郵便封書(以下本件文書という)につき提出を求める申立をしたので、原審は、これを容れ、昭和五四年六月一四日抗告人に対し決定を以て本件文書の提出を命じたのであるが、抗告人が相手方の右主張事実を全面的に否認することによつて、本件文書の存在自体を争つているにもかかわらず、その存在について相手方の証明を求めた跡はなく、また証明があつたとすべき資料もない。

思うに、民事訴訟法三一四条の文書提出の申立に対する裁判においては、文書の所持、従つてその前提としての文書の存在自体が、先ず証明せられねばならず、また、その証明責任は、原則として挙証者に帰すると解するのが相当であり、本件の如き場合も、挙証者としての相手方にあるといわなければならない。

してみると、前記事実関係に鑑みれば、原決定は、審理不尽のそしりを免れないから、これを取り消して更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととし、民事訴訟法四一四条、三八六条、三八九条を各適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 宮崎富哉 高野耕一 石井健吾)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例